Prime Numbers I ~ No cry,No die~ 「23」 III
俺は自身の筋肉をフル活用して、自分の後ろの戸を突き破って、廊下に右足を踏ん張り慣性を受け流して左回転。そのまま無理矢理慣性を打ち消して廊下を走った。この間、0.1秒。
夜二三にマジキチ級の脳力があるように、同じく素数たる俺にも、能力がある。
「物理無視<フィシカス・スルー>」。
俺の能力は、そう呼ばれている。
物理無視は、常識では考えられない力を、物体や物質を問わずにかけられる能力だ。
例えば、俺は時速1000kmを越える速度で走るブースター――リニアモーターカーの原理を、番号的人種の頭脳で改良した乗り物だ――を、車体を破損させず、無論自分も負傷せず、一切の反動を受けず、片腕で、ピタッと止めることができる。その光景を具体的に表現すると、今まで高速で移動し、目で追えなかった車体が、突然、パッ、と動画を静止したかのように、微動だにせずそこにある。と、いった感じだ。
ついでに言うと、そんな俺の暴力に曝されても元気な三一叶がどれだけヤバいか、分かるだろう。奴の能力はそんな耐久力だ。
俺は余裕の笑みで家まで特攻する。夜二三に俺に追い付く手段は無いだろう。
俺は調子に乗って後ろ向きに走――
ガゴンッッッッ!!!!!
――ろうとして、何かに撥ね飛ばされた。
俺は朦朧とする意識の中、一つの解を知る。全力で走った俺を撥ね飛ばせる物体あるいは物質ってのは、俺の知る限り――
――俺はそこで意識を手放した。俺を見下ろし、申し訳なさそうにする三一叶を見たのを最後に。