Prime Numbers I ~ No cry,No die~ 「23」 III
俺は自身の筋肉をフル活用して、自分の後ろの戸を突き破って、廊下に右足を踏ん張り慣性を受け流して左回転。そのまま無理矢理慣性を打ち消して廊下を走った。この間、0.1秒。
夜二三にマジキチ級の脳力があるように、同じく素数たる俺にも、能力がある。
「物理無視<フィシカス・スルー>」。
俺の能力は、そう呼ばれている。
物理無視は、常識では考えられない力を、物体や物質を問わずにかけられる能力だ。
例えば、俺は時速1000kmを越える速度で走るブースター――リニアモーターカーの原理を、番号的人種の頭脳で改良した乗り物だ――を、車体を破損させず、無論自分も負傷せず、一切の反動を受けず、片腕で、ピタッと止めることができる。その光景を具体的に表現すると、今まで高速で移動し、目で追えなかった車体が、突然、パッ、と動画を静止したかのように、微動だにせずそこにある。と、いった感じだ。
ついでに言うと、そんな俺の暴力に曝されても元気な三一叶がどれだけヤバいか、分かるだろう。奴の能力はそんな耐久力だ。
俺は余裕の笑みで家まで特攻する。夜二三に俺に追い付く手段は無いだろう。
俺は調子に乗って後ろ向きに走――
ガゴンッッッッ!!!!!
――ろうとして、何かに撥ね飛ばされた。
俺は朦朧とする意識の中、一つの解を知る。全力で走った俺を撥ね飛ばせる物体あるいは物質ってのは、俺の知る限り――
――俺はそこで意識を手放した。俺を見下ろし、申し訳なさそうにする三一叶を見たのを最後に。
Prime Numbers I ~No cry,No die~ 「23」 II
2317年11月28日18時50分19秒、俺は――
――人生の分岐を、選択した。
「詳しく聞かせろ。考えるのはそれからだ」
俺は目の前に立つ夜二三に、ニヤリと笑って言う。
夜二三は少し逡巡し、単刀直入に言い放った。
「――明日、世界が、滅びマス」
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………はっ!?
「待て待て待て待て待て、え、え?」
「デスから、明日、世界ガ、終わりマス」
俺は超展開過ぎて(よくよく考えたらあり得ない話では無いが)腰を抜かした。情けないこと極まりない。
世界が終わる。そんなこと言われても実感が湧かない。
夜二三が嘘を吐いている可能性はある。
彼女の能力は、抜きん出た魔法適正と、そして――それに付随する、圧倒的なまでの脳力。
彼女も含めた、俺達PNは、NNや√に比べて、脳力が高い。旧人類の単位では大体IQ500程である。
しかし、彼女はそれに加えて、能力としての脳力増強が為されている。それによる彼女の脳力はIQ換算で1000を優に超えるという。
簡単な話、彼女が嘘を吐いたとしても、俺達にそれを嘘を証明できない――整合化が上手すぎるのだ――。
彼女は、やはり虚ろな瞳をこちらに向けたままだ。その内心を、同じPNであっても見透かせない。
「…十七波サン?」
「………」反応に窮した俺は――
――逃げた。その姿に、もう既にセブントの影は無かった。
Prime Numbers I ~No cry,No die~ 「23」 I
゙あなたの力を貸して欲しい゙
それはライトノベルでは、「今までの世界の崩壊」――そして「新世界こんにちは」を意味する。
俺――十七波は今、目の前の美少女――夜二三に、「あなたの力を貸して欲しい」と言われた。
今、ここでそれを受け入れれば、今までの俺の世界は壊れ、新しく再構築されるだろう。つまり――
(死ねる、かもしれない)
俺は考えた。この話に乗るか。それとも乗らないか。
――答えは、考えるまでもなく出ていた。 何かが、抵抗からか、チクリと胸を刺す。
それが何なのか、気づいたのはもう少し、後のことになる。
俺はセブントとして――数字として生まれ、数字として育てられ、数字として学んできた――愚かな劣等感に囚われる、一体のクローンとして、こう答えた。
「詳しく聞かせろ。考えるのはそれからだ」
Prime Numbers I ~No cry,No die~ 「17」 あとがき
どうもーーーーー!!!!!!!クソ作者の英知ことWOCI5IM――逆さまから見るとwisdomなので逆知能と読みます――でーーーーす!!!!!イェーーーーーイ!!!!!!((((
今作、「Prime Numbers I ~No cry,No die~」は、番号的人種――ナンバリング・クローンと呼ばれる人々のお話です。
主人公の十七波は、自分のことが嫌いで嫌いで仕方ない17の少年です。ある日を転機に、彼の人生は動きます。どう動くのか、それは考えてみると楽しいかもですね。
それでは次章、「23」は多分もうすぐ投稿です!!!ではではーー!!!!
2015年4月7日 英知
Prime Numbers I ~No cry,No die~ 「17」 IV
放課後のこと。
俺は、三一叶と真一三に先に帰って貰って、自分達の教室――「鉛筆」に戻ってきていた。
何故かというと、夜二三が、「ちょ、チョッと、オ話がありマス…」と、俺を呼び出したからだ。
完全に告白のシチュだが、アイツに限っては違う気がする。だって夜二三だぜ?
そう考えつつも、本能では緊張しているようで、さっきから心臓がうるさい。やっぱり女の子から誰もいない教室に、「話がある」と呼び出されたら嬉しい。
僅かながらも期待しつつ、俺はいつの間にか目の前にあった教室の扉を開く。
そこには、完璧と言っていいほどの美貌を誇る、長髪の美少女がいた。
俺は夕焼けに映える彼女に、不覚にも見とれてしまった。
「…お前…綺麗、だな」思ったことが、そのまま口をついて出た。
「え、エット…あ、アリガとう、ございマス?」夜二三が恥ずかしそうに顔を俯ける。
俺達はしばし沈黙した。
しばらくして、夜二三が切り出した。
「十七波サン」普段の彼女と違う、しっかりとした口調で言う。
「あ、ああ…」ヤバい、死ねそう。死なないけど。
「………………アナタに、お願イがありマス」
「な、何…で、すか?」
彼女はまた黙って――今度は、強固な意思を瞳に宿して――、こう言った。
「アナタの力を、貸シてくだサイ」
この時、俺の、終わらないはずだった命に
――ヒビが、入った。
Prime Numbers I ~No die,No cry~ 「17」 III
私ハ、コミュニケーション能力が皆無ナのデス。
つまり、何ガ言いたイかト言うと…
「…どうした、何か用か?」
「えっ……ト…イイエ、何でもナイデス」
失敗しまシタ。初黒星デス。
私は、彼ニ、告白、しなケレバなりマセン。
つマり――
夜二三の視線が痛い…そう思いながら俺は三一叶、真一三と話を続ける。
(ぷぷ…十七波クン、好かれてるんじゃ?)真一三がテレパシーで言ってくる。コイツ引っ叩いていいですか…
そんな訳ないだろう。俺は心の中で訴える。
俺は俺を認めない。この世の誰からも好かれはしないし、好かれたくもない。こんなに俺が大嫌いな俺を、好かれたくはないのだ。それは即ち、嫌味や中傷の類だと思うようにしている。
真一三を見やると、とても悲しそうな――普段の調子からは想像も出来ないような――顔で俺を直視したあと、「トイレ」と言って、どこかに行ってしまった。
俺は授業開始五分前の予鈴を聞き流しながら、自分の席にさっさと着いた俺は、深く、本当に深く、ため息を一つこぼした。